若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
chapter,4 New Zealand

《1》


 ――貴女になら殺されても構わない。

 ハワイを発った夜に物騒な言葉を投げかけられてからも、カナトの態度は変わらなかった。翌日の朝、このクルーズのあいだ自分の恋人でいてくれと改めて依頼された。マツリカに拒むことなどできるわけがない。だって自分はすでに彼の専属コンシェルジュとしてハゴロモの支配人や船長にも認められているのだから。
 それからのカナトはマツリカを本物の恋人のように甘やかして、傍に置きつづけている。
 朝も、昼も、夜も。
 唇を重ねるだけのキスだけでなく、舌を絡めるような深いキスもときに交えて、ふたりは偽りの恋愛関係に溺れていく。
 けれど、マツリカにはそれ以上のことはできない。クルーズのあいだの女避けでしかない自分が、彼を自分のために縛ることなど許されるわけがないのだから。
 必要以上にカナトに近づくのは危険だとプレミアムスイートルームに付随する使用人控室に籠ることが増えた。

 ――これは仕事。そう、きつくきつく自分を律して。
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