若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「でも、到着地は東京でしょ? どっちにしろ会えるんじゃない?」
「里帰りする予定とは言ってたな。こうなったら閉じ込めるしかないか……もう二度と船に乗せられないように……いや」
「ちょ、物騒なこといわないでよ。とにかく、気になったから連絡しただけだから。これ以上僕を巻き込まないでね!」

 イッセーに電話を切られたことに気づくことなく、マイルはぼそぼそと受話器に向けて計画を練っていく。
 コンシェルジュとして乗客とは一線を画して仕事をしているから、マイルは安心して彼女を外の世界に送りだせていた。
 けれどもそこに豪華客船のオーナーとしてカナトが登場したとなると、心穏やかではいられない。

「……りいか、ハゴロモに乗っているあいだは仕方ないね。若き海運王を篭絡してオレに有利な情報を手に入れてくれよな」

 マツリカも自分と同じ気持ちだと思い込んでいるマイルは、彼女がカナトと恋人関係であることを信じない。
 いつしか彼女が自分のために若き海運王に近づいているものだと、偏った解釈をして、自我を保つのであった――……
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