若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

《4》


「そう硬くなる必要はないよ。最上階は鳥海グループで貸し切っている」

 マツリカのキャリーバッグを片手に螺旋階段をするするとのぼって最上階まで到達したカナトは、息を切らせながら追いかけてくる彼女を見てくすりと笑う。

「……存じております」
「驚かないか。さすがハゴロモのコンシェルジュを勤めているだけある」

 上機嫌で船内の廊下を歩いていたカナトは、歩調をマツリカに合わせながらゆっくりと語り出す。日が暮れた船内はライトアップが施され、窓の向こうの墨のような海を照らしていた。
 ゆらゆらと揺れる波を遠目に、マツリカは自分が置かれた状況を冷静に見つめようと姿勢を糺す。

 ――彼は、幼い頃のあたしのことを知っている?
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