エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
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旦那様直々に『好きなことをしてろ』と大変ありがたいお言葉をいただいたのだけど、実際何をしたらいいのか迷う。
私に明確な趣味があればそれに没頭したりして、心と身体の安寧になるのだろうけど生憎ない。仕事やら人付き合いやらに費やしてきただけで、それらがなくなった今空っぽだ。
本当に私は自分軸がない。昔から他人に合わせてばかりだったから、優柔不断のツケが来ているんだ。
「暗……」
「だって~!そうとしか思えないー!」
モーニングコーヒーを優雅に飲む朔から放たれた容赦ない一言に、私は泣きべそをテーブルに突っ伏した。
一週間のんびりと本を読んだり散歩に出かけたりして、心安らかに過ごしてきたけれど、これも毎日続けばやることがなくなってくる。手持無沙汰な時間が増えると、どんどんマイナスの方向に思考が働きだす。それをつい土曜日、朔に朝から愚痴ったら止まらなくて暗い食卓になってしまった。
朔は呆れ顔だったけど、最後まで話を聞いてくれた。
「人間生きてりゃそういう時期もあるし、何度もいうけどお前は考えすぎ。周囲はいうほど他人のこと気にしてない。自分の人生で手一杯なんだから」
「……朔に言われると納得してしまう」
「これでも弁護士だからな」
そりゃそうか。私よりはるか深刻な事案を扱って日々奔走しているのだから、私の悩みなんて可愛いものなんだろう。
「人間諦めなかったら立ち直れる。今はその時なんだから、気負わず思いついたことやればいいんじゃないか?」
「そうだね」
先生と生徒のごとく嗜められて私は崩していた姿勢を正す。
まず、いつまでもウジウジと卑屈なところを直さないとな。
とは思いつつ、どうしても自虐がやめられないのは何十年と積み重ねてきた自分の引っ込み思案な性格のせい。でも、いきなり私が陽キャラになって、「何だってうまくいくわ~」なんてスキップしだすのも病的で心配されるし、私自身想像してうすら寒くなる。人間の性格ってそう簡単に変わらないものだ。長期戦でやっていくしかない。
「今日は出かけるぞ」
「どこに?」
「買い物。日用品とか、あとお前持ってきてる服とか少ないだろ。季節も変わるし買いに行こう。俺も買いたいものあるし。着替えて三十分後集合」
「え、早くない?」
まだ時計は七時過ぎだ。店が開くまでかなり時間がある。
「ちょっと遠出する。都心は混むだろ」
「……着替えてくる」
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