義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

 今さら掘り返したところで、菅屋さんは罪を償ったあとだしどうにもならない。ただやりきれなさをぶつけたかっただけじゃないかと、自分でも呆れる。

 だがそれでも、彼に伝えておきたかったのだ。


「あなたは俺が尊敬する先生ですし、こんな話をすべきではないとずっと思っていました。でも、あなたが筧の初公判を担当するという情報を耳にして、黙っていられなくなったんです」


 当然筧の弁護には全力を注ぐだろうし、それは今の先生が行うべき正義だ。だが、過去にはそうしてもらえなかった人もいることを忘れないでいてほしい。

 グラスを傾けて考えを巡らせているような彼を横目に、俺はテーブルに札を置いて腰を上げる。「お会いできてよかったです。お元気で」と告げて一礼し、その場をあとにした。

 地下から階段を上がって外へ出ると、人々の喧騒と、明るすぎる東京の夜に包まれる。ここは軽井沢のような静けさはなく、綺麗な星も見られない。

 ……明日は早く帰ろう。六花がそばにいないだけで無性に不安になる。

 やはり一緒にいるのが一番だと、愛しい彼女の姿を思い浮かべながらビジネスホテルへと向かった。


< 233 / 265 >

この作品をシェア

pagetop