義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

「菅屋さんが罪を犯したのは事実で、刑に服するのは当然です。ですが、彼ひとりのせいにされなければ、筧も罪を償わせられ、周りの反応だってきっと違っていた。当事者の家族を守ることも、弁護士としての重要な務めでしょう」


 心の奥底に秘めていた思いを吐き出しても、過去には戻れない。やりきれなさから小さくため息をついた。

 御村先生は汗を掻いたグラスを見つめたまま、ふっと力ない笑みをこぼす。


「……私に説教するとは、君は本当に立派になったね」


 ぽつりと漏れた声には嫌味を感じず、どこか優しく憂いを帯びたものだった。

 彼は薄まったブランデーをひと口飲むと、仕事をしているときのようなきりりとした雰囲気を取り戻して、はっきりと言う。


「君の話はすべて憶測に過ぎない。証拠もないのに菅屋さん一家への情があるだけで私を疑うなんて、弁護士らしくないじゃないか」
「ええ、そうですね。でも今日は、弁護士として話しに来たわけじゃありません。愛する人と、その家族がつらい思いをする要因となった裁判に不満を抱いているだけの、ただの男です」


 御村先生の言うことは間違っていないなと、自嘲気味の笑みをこぼして俺もグラスに口をつけた。
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