義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

「これから出かけるのよね。帰ってきたら、少し話をしてもいい?」


 心臓がドクンと重い音を奏でた。母は微笑んでいるものの真剣さが窺えて、重要な話があるのだろうとわかる。

 まさか例の件ではと勘ぐりつつ、私はなにも知らない素振りで軽く笑う。


「やだな、なに? 改まって」
「女同士の話よ。たまにはいいでしょう」


 母は終始穏やかな調子だが、こちらの胸はざわめいて仕方ない。それをひた隠しにして「わかった」と応え、家をあとにした。

 わが家は旧軽井沢のメインストリートである銀座通りに近い。おしゃれなカフェや雑貨屋、お土産屋などが立ち並び、今日も観光客で賑わっているその通りを、私はぼんやりしながらのっそりと歩く。

 母も最近のニュースを見て思うことがあって、真実を明かそうと決めたのだろうか。いつまでも現実逃避していられるわけではないとわかってはいたが、私も身の振り方を考えたほうがいいのかもしれない。

 八分咲きの桜が映える青空とは真逆の憂鬱な気分で、レンガのような石畳の道を見下ろして歩いていたとき。


「……りっちゃん?」
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