敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
離陸



 ――十五年前。

 十三歳、中学二年に上がったばかりの春の頃。

 私はお年玉とお小遣いで貯めたお金で、二十歳になる兄の誕生日プレゼントを買おうとしていた。

 なにがいいかわからないから兄の親友の匡くんに一緒に来てほしいと頼んだら、めんどくさそうな反応をされつつもきちんと彼は待ち合わせ場所に来てくれた。

 当時の匡くんは大学二年生の十九歳。航空大学校に通い始める前のことだ。

 駅の改札を出たあたりにすらりと背が高くモデルのようにスタイルのいい彼を見つけた私の顔は自然と笑顔になる。気が向いたら行くと言っていたのに、待ち合わせ場所に私よりも先に到着している匡くんはやっぱり優しい。

 広告が掲載されている柱に軽く背をつけてよりかかっている彼は、左手をジャケットのポケットに突っ込み、右手でスマートフォンをいじっている。眠いのか小さな欠伸をこぼしていても、整った顔立ちはそれほど崩れない。むしろその気怠い仕草すらかっこよく見えてしまうのはどうしてだろう。

 たくさんの人が行き交う駅周辺。匡くんは、通り過ぎる女性たちの視線を浴びているが、スマートフォンを操作しているためまったく気付いていない。
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