魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

一生、ついていきます!

「カイル・グラード、前に」

(カイル? カイルなの? でも、名字が……)

 進み出てきたカイルの姿に目を瞠った。

 髪は綺麗に切りそろえられ、貴族の正装をしている。

(はわぁぁぁ、かっこいい!!!)

 黒いコートの襟には銀糸で細かい縫い取りがあり、白地のウエストコートにはさらに華やかな刺繍があった。その中には私の髪色のピンクも使われていて、私のドレスと対になるように作られているような気がした。
 それはスラリとしたカイルをさらに凛々しく見せていた。

 キリリとした目もとをあらわにしたカイルは、その蒼い瞳をスッと私に向けて、ニコリと笑った。
 笑った!!!

(きゃああ、かっこよすぎて、心臓が止まっちゃう!)

 心の中で大騒ぎをした私は、カイルに飛びつきたくて仕方なかった。陛下の御前だから、我慢したけど。
 
(でも、なんでそんな格好をしているの?)

 私が首を傾げて見ていると、カイルは王座の前まで来て、片膝をついた。
 陛下が立ち上がり、口を開いた。

「カイル・グラード、そなたは己の身の危険も顧みず聖女を守った。聖女を失っていたら、この国は今頃、絶望に覆われていたことであろう。その功績をたたえて、一代男爵の爵位を与える」

 いちだいだんしゃく?
 一代だけだけど、カイルが貴族になるってこと?
  
「身に余る光栄に存じます」

 カイルが頭を垂れた。そのしぐさが様になっている。
 いつの間にこんな立ち振る舞いを覚えたの?
 私がうっとりと眺めていると、陛下がカイルに尋ねられた。
 
「褒美になにを望む?」
「その前にやらなければならないことがございます」

 カイルが答えると、陛下はニヤッと笑って、「よい。許す」とおっしゃった。
 カイルは一礼すると、立ち上がり、まっすぐ私のもとへやってきた。
 久しぶりのカイルがいつもと違う格好をして、微笑みまで浮かべていて、カイルだけど、カイルじゃないみたい。
 ドキドキして見ていると、私の前に跪いた。
 真剣な目で見上げられて、ときめきが止まらない。
 
「アイリ様、愛しています。一生おそばで守らせてください」

(キャ~、みんなの前で愛していますだなんて、恥ずかしいわ! でも、言われなくても、カイルはずっとそばにいてくれると思っていたんだけど?)

 疑問が顔に出ていたみたいで、ケルヴィン公爵が「ゴホン、カイル殿、聖女様は理解されていないようだぞ?」と言った。
 それを聞いたカイルは焦ったように、私の手をつかんだ。

「アイリ様、結婚してください!」

 えっ、けっこん!?
 カイルと結婚?
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