華夏の煌き
5
41 思惑
 教壇から絹枝は一通りの女学生たちを見下ろす。やはり星羅は他の女学生とは一線を画す。彼女は与える学問を受け身に吸収するのみならず、古人の思想の欠点なども指摘する。能動的な学習は、隣の男子学生にも劣るどころか群を抜いている。若く幼い星羅は、まだまだ浅い見通しと机上の空論の部分を否めないが、数年もすれば国家の試験はすべて、どのジャンルでも合格できるだろうし文官としての出世も見込める。このまま順調に勉学に励めば、役人でも教師でもまたは薬師でもすきな進路を得られるだろう。

 太極府の陳老師から、星羅は国の大事を担うことになるだろうから、よく学問を身につけさせてほしいと頼まれたときに、それほど深く考えずに返事をした。今になって、そのことを軽く受け止めてしまったことを反省する。ロジカルな絹江にとって太極府の存在をあまり重んじていなかった。口には出さないが、国家の大事を、占術に半分以上請け負わせていることを軽く軽蔑していた。まだ王が祭司ではなく政治と分離しているので神権政治とまでは言わないが、非科学的なもので信憑性はないと思っていた。

「星羅さんを見ていると占術も侮れないのかしらね」

 合理主義者だった高祖も占術を活用していたことがあったらしい。夫の慶明も、よく星羅の実母に占っていてもらったことを思い出す。
「私も何か占ってもらおうかしら……」

 そう考えたが、絹枝自身特に悩みはなく、占ってもらうことはなかった。

「そうだ」

 ひそかに息子の陸明樹の正室に星羅をと考えている。これがうまくいくかどうか、明樹、また陸家にとってどうなのかを占ってもらおうとかと思いつく。そう考えると珍しくウキウキした気分になってくるのが不思議だ。夫の慶明と結婚する時よりも心が躍っている。しかしまずこのことは慶明に相談してからと、冷静な絹江はいきなり行動には移さない。おそらく良い縁談だろうとは慶明も思うはずだ。
 明樹は男友達とつるんでいるばかりだから、親が縁談を決めても気にしないだろうし、星羅に対して好意的なので反対はないだろう。

「あら、これ悩みじゃないわよね」

 縁組がうまくいきそうだと思い始めると、わざわざ占ってもらう必要性を感じなくなってしまった。頃合いを見て話しを出すだけなのだ。いつも通りの鎮静された感覚になっていく自分につまらなさを感じつつ帰宅する。

< 86 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop