望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
28.深淵
 カレンは静かに振り返った。
「旦那様、それは本当ですか?」
 レイモンドの目を見据えて、尋ねる。

 朝方に帰宅したレイモンドが、カレンの部屋に訪れていた。彼女が鏡台の前に座って身支度を整える背中に、レイモンドが発した言葉に対する問い。

「ああ。すでに決まったことだ。私たちはダレンバーナに攻撃を仕掛ける」
 感情の起伏も読み取れないような口調。

「それが、旦那様のお考えになった、この国の正しい道なのですか?」
 彼女の口調は穏やかだった。怒りや憎しみなどの感情を一切表に出さない口調。そして振り返るのをやめ、視線は自分の手元へと戻す。

「いつまでもダレンバーナに支配されていたくない、という表れだな。できれば、以前のような国交を望んでいる」

 そうですか、とカレンは目を伏せて呟いた。

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