結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
三章
『……ひと晩だけでいいんです。一夜だけ、龍一さんの恋人にしてください!』

 自分がどれだけ馬鹿なことを言ったのか、龍一の表情で凛音は思い知ることになった。懐に入り込んだ凛音を見おろす彼の瞳は、驚きに大きく見開かれている。

「冗談にしても、ずいぶんタチが悪いな」
「本気ですっ」

 そう言ったものの、困り果てている彼の姿に凛音の勢いはしぼんでいく。

 すっと彼から離れ、距離を取った。

(やっぱり、そうだよね)

 聞き入れてもらえるはずがない、最初からわかっていたことだ。

(これ以上、彼を困らせたらダメね)

 凛音は小さくつぶやく。

「忘れてください。なにも聞かなかったことに……」

 冗談だったと言ったほうが彼の気が楽になることはわかっているのに、どうしても言えない。凛音は肩を震わせ、うつむいた。

 長い長い間があって、大きく息を吐いた彼が静かな声で尋ねた。

「凛音が社会人になるときに、俺が言った言葉を覚えているか?」

 凛音は弾かれたように顔をあげ、正面から彼を見つめる。龍一はなにかを決意した、強い目をしていた。
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