結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 動いた気配で起こしてしまったかと龍一は彼女の顔をのぞきこむ。

 凛音のくるんとカールした睫毛は伏せられたまま、起きたわけではなかったようだ。

 だが、彼女の目尻で光るものを見つけ、龍一ははっとする。

(……涙?)

 凛音はぎゅっとより強く、龍一の手を握った。

「ないで。……ひとりにしないで。誰か……」

 夢でも見ているのだろうか。

 目の前の凛音が初めて会ったときの寂しい目をした少女に戻ってしまったような気がして、龍一はたまらない気持ちになる。

 長いこと自問自答し続けてきた言葉がまた頭をかすめる。

(どうしてもっと優しい言葉をかけてやらなかった? 兄として守ってやると、なぜ言えなかったんだ?)

 当時はわからなかったその答えを、今の龍一は知っている。

「お前の兄にはなれないんだ。どうしても――」

 龍一はゆっくりと彼女に顔を近づける。

 ぺろりと舐め取った涙はやけに甘く、彼の本能に火をつけた。

 理性が音を立てて崩れていく。

 桃色の唇に龍一はそっと口づけた。

 禁断の果実を味わってしまった人間の末路は哀れなもの。知っていてもなお、止めることはできなかった。
 


















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