手を伸ばした先にいるのは誰ですか
03
遠藤支配人と一緒に試飲会場へ戻りながら西田さんにその報告だけしておく。
「あの小さな美鳥様とワインを飲む日が来るとは」
「ふふっ…試飲ですけど」
「完璧なクイーンズイングリッシュにも感心致しました」
「唯一、朱鷺と西田さんに勝てるところです」
「唯一というのはonlyではありますが、代用がきかないや無類のといった意味合いにもなりますし、比肩するものはないという意味にも受け取れます。個性でもあるので美鳥様の大きな武器ですよ」
「はい…ひけん…とは?」
「比肩と書きます」
「ああ、それで分かりました。すみません…私、まだまだよくこういうことがあるんです」
「当然です。日本で小学校2年生までしか通っておられないのですから」
「朱鷺に6年生までの勉強は日本語でも見てもらってたんですけど」
「生涯死ぬまで学習でよろしいと思いますよ?私はそう思っています」
西田さんに続き心強い方が朱鷺に付く。ホテル業務でも教えて頂くことばかりだと思いながら会場へ着くと
「美鳥さん、お疲れ様」
川崎さんに出迎えられて一緒にスパークリングワインから手にした。
「川崎さんがすでに試されたのはどれですか?」
「オーガニックの赤白」
彼女の見せてきたリストに‘3’という数字が見える。
「これは?」
「私個人の好みで5段階評価」
「なるほど」
そう言った遠藤支配人が
「美鳥様、私たちもそうしましょう。美鳥様の初の企画を邪魔するつもりはありませんので口出しはしませんが、参考までに後日リストを照らし合わせて下さい」
と私たちから離れて行った。私と川崎さんは顔を見合せ同時にグラスに口をつける。
「難しいですね…食事でもなく仕事だとか評価って思って飲むと何もわからない…」
私が川崎さんにそう言うと、後ろからクスッと笑い声がした。