手を伸ばした先にいるのは誰ですか
06





マンションに帰ってからすぐにシャワーを浴びることにする。髪をほどき、黒のスーツを脱ぐ。執務室での仕事はスーツでなくても十分できるのだが、フロント等に呼ばれる時のことを考えて、いつも黒のパンツスーツだ。だから私のクローゼットの中にはジャケットの丈やカラーのある無し、パンツのシルエットの違いなどでたくさんの黒スーツが並ぶ。

シャワーを終えて水を飲みながら2台のスマホを見るとプライベートの方が光っている。10分ほど前に着信のあとメッセージが届いており、そのどちらもが旦那様からだった。

‘何時でもいいから電話を下さい’

こんな時間に珍しい…何があった?予測できるはずもなく、持ったままのグラスをそっと置いてリダイアルしてからソファーに腰を下ろした。

「こんばんは、美鳥です」
‘ああ、電話悪いね’
「いえ、こちらこそシャワー中で出られなくて…何かありましたか?」
‘そうだね…ついさっきまで朱鷺と遠藤くんと一緒に飲んでたんだよ’
「今日から屋敷に戻るとおっしゃってましたね、遠藤さん」
‘戻るって言ってたかい?ははっ、そうだね…ずいぶん久しぶりに戻ってくれたよ。とても優れた頼もしい人材になってね’
「はい」
‘そこでね、朱鷺に聞いたんだよ。結婚についての考えを’
「…」

朱鷺が話をしたから旦那様から電話か…
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