カッコウ ~改訂版

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 大学の卒業が近付き、私は卒業の準備を始めた。アルバイトに卒論に、週末は孝明とのデート。忙しさが茂樹を忘れさせてくれる。
 私の心は決まっていたから。孝明に付いて行く。もう絶対に茂樹とは会わない。決心すると晴々して、あれほど茂樹に執着していた自分が不思議に思えた。
 そんな矢先、私は体の不調に気付く。生理が遅れている。まさか妊娠?孝明も茂樹も避妊していたのに。でも絶対はない。どちらの子? 私の心は絶望感で満ちていく。
 産むことはできない。どちらの子かわからないのに。これからは孝明と生きていくと決めたのに。もし茂樹の子供だったら大変なことになる。絶対に産めない。
 毎日、生理を待ちながら一週間が過ぎた。私の不安は確信に変わる。元々、私の生理は順調で遅れたことはなかったから。でも孝明に黙って手術はできない。孝明が産むことを望んだらどうしよう。
 誰にも相談できず、でも私は一人で決断もできず、孝明に気付かれてしまう。軽いつわりが始まって物が食べられない私に、
 「どうしたの、みどり。顔色悪いよ。」孝明は心配そうに問いかける。
 「何でもないよ。大丈夫。」と私は答えたけど。大好物のパスタをどうしても口に運べない。小さくため息をついてフォークを置く私に、
 「そう言えばみどり、今月はまだ来てないよね?」孝明は不安そうに言う。どうせ言わなければ手術はできないのだから。私は孝明を見つめて頷く。
 「本当?」驚いて私を見つめる孝明。でもその目に喜びの色を感じて、私は不安になった。
 「まだ調べてないけど。」私が小さく答えると、
 「検査薬やってみて。それから病院に行こう。俺、みどりの親に怒られるかな。」孝明の意外な言葉に私は戸惑う。
 「産むの?」驚いて言う私に、
 「産まない理由、ないでしょう。」と孝明は優しく言う。
 「だって私達、まだ結婚していないし。私の就職だって駄目になっちゃうよ。」産めない。孝明の子供だという確信がないのに。もし茂樹の子供だったらどうするの。
 「急いで入籍しよう。しばらくは大変だと思うけど、俺の収入でも生活はできるよ。」孝明の優しい言葉が私の胸に刺さる。
 「でも…住む所もないし。」私の抵抗は徐々に弱くなる。孝明を納得させる言葉が浮かばない。
 「結婚すれば社宅に移れるから。就職はいったん辞退して、子育てが落ち着いたら探せばいいよ。」孝明は何も知らないから。私が産めない本当の理由。
 「孝ちゃんの親に反対されるでしょう。」私の声はだんだん弱くなっていく。
 「俺の親より、みどりの親でしょう。でも子供がいるんだから。わかってくれるよ。俺もとうとうパパか。」孝明は温かい目で私を見つめた。私は涙を堪えることができない。一筋流れた涙に、
 「一人で心配していたの?馬鹿だな。二人の子供なのに。」孝明は私の涙の理由を、半分しか理解していない。『どうしよう。産みたい。孝明の子供かもしれないのに。』私は手で顔を覆って、涙を流し続けた。

 






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