カッコウ ~改訂版

3


 孝明は頻繁に連絡をしてくれた。昼間の空いた時間にはメールを。夜、仕事が終わると電話で話した。水曜日、早めに上がった孝明と待ち合せて食事をする。
 「みどり、次の休みは何曜日?」デートの予定を決める時に、孝明に聞かれて
 「次は土曜が休みだよ。」私が言うと、孝明は笑顔で
 「じゃあ土曜日、会える?」と聞く。私も笑顔で頷く。
 「これから、土曜日は休みにするね。」販売員のアルバイトだから。土日に仕事を入れると孝明とすれ違ってしまう。
 「ありがとう。次はどこに行きたい?」孝明は優しく私に聞く。誰かに大切にされることは嬉しい。孝明に優しく聞かれて、私は忘れていた感覚を思い出す。
 「どこでもいいよ。孝ちゃんが考えて。」私は少し甘えて答える。『私はこの人と幸せになりたい』胸に満ちる思いは、茂樹との不毛な関係を忘れさせてくれた。
 「わかった。楽しみにしていてね。」孝明の瞳は熱く、私を甘く輝かせる。
 駅までの道。肩を抱かれて歩きながら、孝明は途中の小さな公園で私にキスをした。初めてのキスは甘く、私を幸せな気持ちにした。一瞬、茂樹のキスと比べてしまったことを、私は考えないようにした。
 一年半、私は茂樹に抱かれ続けて。茂樹に慣れてしまった体は、すぐには孝明に反応できない。でも孝明ならきっと茂樹を忘れさせてくれる。必ず孝明の方を向けると、私は信じた。
 
 自分勝手な茂樹からは、しばらく連絡がない。そろそろ誘いの連絡が入る頃だった。何度も別れようと言う茂樹。次に誘われたら、はっきり断ろう。新しい彼ができたと告げて。茂樹は驚くだろうか。私から別れを告げて、茂樹を慌てさせたい。
 そんな風に考えること自体、茂樹を断ち切れていないからなのに。私は自分の本心には気付かなかった。
 『明日、時間が取れるよ。』というメールが茂樹から届いたのは、翌日の昼だった。
 『ごめんなさい。無理です。』私は茂樹の誘いを断ったことはない。
 『珍しいね。大事な用事?』いつになく、すぐに茂樹は返信してくる。
 『私、彼ができたので。先生の言う通り、もう終わりにします。』私は意気揚々と返信をする。
 『そうなの?一度、会って話そうよ。』茂樹の驚く顔が浮かび、胸がスッとする。
 『今週は無理です。』思い切り冷たく返す。
 『来週は?いつなら大丈夫?』茂樹の返信は弱気になり、私は少し切なくなってしまう。
 『まだわかりません。』もう会わない。メールもしないでほしいと言えない私。断ち切れない心に、逃げ道を作ってしまう。最後に一度会って、きちんと別れを告げようと。
 『時間が空いたら連絡して。待っているから。』茂樹の言葉に、ホッとしていた。
 
 







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