身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
真実のフラワーピアス

 俺は昔から、人より記憶力がよかった。暗記する能力とは少し違い、見たものを映像として記憶する力が優れていたのだ。

 たとえば過去のことを聞かれた時、すべて写真やビデオのような映像で思い出されるので、誰がなにをしていてなんと言っていたか、物はどんな配置で誰がどこにいたかなど、ほぼ正確に答えられる。数年前のちょっとしたやり取りも、遡れば保育園の頃の出来事も事細かに覚えている。

 教科書のページやノートも見たまま記憶できるため勉強はよくできたが、苦労することも多い。楽しかったことを覚えていられるのはいいものの、嫌な出来事までいつまでも鮮明に蘇ってくるから困るのだ。

 小学二年生の時、両親が頻繁にケンカしていたことも、その原因も、お互いをどう罵っていたかもはっきり思い出せる。離婚してから母に『お父さんのことは忘れなさい』と言われるたび、逆にそういった嫌な記憶ばかり蘇って苦しかった。

 父が不道徳な行いをしたのは子供ながらに理解していた。しかし母は厳しく細かい人で、家に帰ると息が詰まるという父の気持ちもわからなくはなかった。

 それを覚悟した上で結婚したのではないかと言いたくもなるが、長く生活を共にしていくうちに変わってしまうこともあるのだろう。
< 128 / 276 >

この作品をシェア

pagetop