彼の指定席
【8】勤務中の告白
――あの日。
増永さんが、あたしの目に浮かんだ涙に気づいたのかは分からない。
トイレから戻ったとき……、彼はいなかったから。
店長に聞いたら、
「急用ができた」
とかで、オーダーした料理をキャンセルして店を出て行ったらしい。
その日を境に、増永さんはぱったりと店に来なくなってしまった。
カウンターの工事も終わったのに。
彼がいつも座っていた席。
今では、違うお客様が座るようになっていた。