それは手から始まる恋でした
触れられたい
 部屋から荷物を持ってきた後、夜ご飯を食べ終わった高良は仕事を始めたので同棲開始初めての夜は一人で眠りについた。

 朝起きると高良は少し離れて私の手を握りスースーと規則正しい寝息を立てていた。私の手は高良の顔の前で繋がれている。遠いのか近いのかよく分からない。私はそっと手を離し、出勤する準備を始めた。

 高良とは違い私はまだ研修期間の身。フレックス制で出勤するわけにもいかない。行ってきますのキスなんてもちろんないが、出勤前に眠っている高良を見ているとキスをしたくなった。

 寝込みを襲うなんて私はどうしてしまったのだろうか。
 でもごめん! 欲にあらがえません。

 私は高良を起こさないようにそっとキスをした。すると高良は私の腕を取り、そのまま私をベッドの上に押し倒した。

「あの、そろそろ出発しようかと……」
「まだ時間あるだろ」
「はい」

 朝の甘いキスは格別だ。高良はキスをしながら私の手を堪能している。よく飽きないものだ。この手がなければ私はこのキスもしてもらえないのだろうか。ハンドケアはこれまで以上に入念にしなければ。そうだ、リップバームもまめに塗ろう。

「何考えてるんだ。俺に集中しろ」

 はい。あなたに集中しすぎてます。キスに集中すると胸のあたりがざわざわしてきた。もっともっとと心が叫んでいる。なんで今日は会社に行かなければならないのだろうか。このままキスして一日過ごしたい。

 高良は私の頭を撫でてキスを終わらせた。

「今日は会社に行かないけど他の奴に色目使うなよ。特に戸崎さん」
「一度も使ったことありません。でも今日は会社で会えないんだね」
「そんな可愛い顔したら行かせたくなくなる」

 高良は再び私にキスをしてきた。幸せだ。なんて幸せな時間なんだ。

 幸せに浸っていると感覚が鈍くなる。私は遅刻しそうになった。

 高良の計らいでタクシー出勤になったがさすがに会社の近くでは降りられない。高良に言われた場所でタクシーを降り私は猛ダッシュで出勤した。
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