友達、時々 他人


 一目惚れ、だった。

 入試の帰り道。自転車で転んで泣いている女の子がいて、あきらが駆け寄った。女の子を立ち上がらせ、擦りむいた膝をハンカチで拭いて、バンソーコーを貼ってあげていた。

 女の子を励まして泣き止ませ、倒れた自転車を起こして、押して歩きだした。

 三十メートルも歩かないうちに女の子の母親が来て、帰って行った。

 女の子に手を振るあきらの横顔が優しくて、可愛かった。

 あの時のあきらは髪が長くて、後ろで一つに束ねていた。入試だったからだろう。

 その髪を解いた姿を見たいと、思った。

 その髪に指を絡ませたいと、思った。

 全身の毛が逆立つほど、強く、そう思った。

 高校ではそれなりに遊んでもいたし、彼女もいた。セックスの経験もあった。

 けれど、あきらの横顔に欲情したように、誰かを強く求めたことはなかった。

 だから、大学であきらを見つけた時は、奇跡だと思った。運命だ、とすら思った。

 サークルになんて入るつもりはなかったのに、あきらが仮入会の申し込みをしているのを見て、そそくさと後に続いた。

 そんな感じで入会したサークルは、意外と楽しかった。

 先輩たちにも恵まれて、あきらとも親しくなれて、大学生活を楽しめそうだと思った。

 けれど、新歓で早くも失恋した。

 あきらには高校から付き合っている彼氏がいた。

 彼氏からのメールを喜ぶ姿や、週末はデートだとはしゃぐ姿が可愛くて、諦めるに諦められない自分が悲しかった。

 けれど、あきらの幸せを壊したかったわけではなくて、俺は『仲間』で満足することにした。

 だから、彼女を作ったこともあった。

 あきらほどすきにはなれなかったけれど、俺なりに大切にしたし、楽しかったと思う。

 大学を卒業して疎遠になり、大和先輩とさなえの結婚式で再会し、くすぶっていた線香花火ほどの火種が、ドラゴンさながらに全身に火をつけた。

 不本意ながらセフレだなんて関係になってしまったけれど、今度こそあきらに俺を好きになってもらいたいと、尽くしてきた。



 そのあきらが、俺との関係を解消しようとしている――。



 そんなことは、させない。



 絶対に――!

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