お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
3.奥さんの推しに嫉妬する俺はおかしいのだろうか



俺は独占欲が強いのかもしれない。
そんなことを思うのは、雫が最近推しに夢中だからだ。
雫の現在の最推しと思われるキャラクターはソーシャルゲームのジャスという男性キャラクター。
爽やかなイケメンで、やんちゃな性格、主人公の相棒役を務めてくれることも多い(らしい)。
雫がそのキャラクターに夢中なのは別にいい。わざわざ俺に伺いをたて、小遣いの範囲で課金をし、『やったああああ! ジャスくんの新スチルゲットぉぉぉ! SSR―――!』などと叫んで画面をスクショし、俺に見せるためリビングをダッシュで駆けてきてくれてもいっこうに構わない。

しかし、その中の人物……声優に夢中な場合、気分は複雑だ。
キャラクターは二次元、声優は三次元じゃないか。

もともと、兆徹という声優は雫の推し声優だった。俺が一緒に見たアニメにも出演していたし、その中でも主要キャラクターを演じていた。
彼の劇中での死を雫とふたり悼んだものだ。他の作品でもちょくちょく似た声を聞き、雫本人も『最近、好きになるキャラ、兆くんが声優してることが多いなあ』とは言っていた。
そのあたりで、多少引っかかるものは感じていた。ほう、その男の声が好きなんだな、と。

秋くらいから雫がそのジャスなるキャラクターにハマり、さすがに俺は兆徹という声優をネットで検索した。そして驚いた。普通に顔が良い。年齢は雫よりふたつ下の二十六歳。声優として売れ始めたのはこの二年くらいだそうだが、顔も声もよく、歌も上手いらしい。
そこにきて、なんと雫が仕事でその声優に会うというではないか。
内心俺は面白くなかった。しかし仕事に文句をつけるわけにはいかない。そして、雫の趣味に対し寛容であろうというのは結婚当初から決めていたことだ。笑顔で見送ったものの、雫が兆なる声優にいっそう惚れこんでしまうのではないかと不安でやきもきしていた。

案の定、帰宅した雫は目をキラキラさせてアフレコの感動を伝えてくれた。それだけで石を呑んだように身体が重たいというのに、差し出してきたのは兆徹の朗読劇のチケット。
あからさまに嫌な顔こそしなかったけれど、けして楽しそうな顔はしていなかった自覚がある。雫が、そんな俺に「どうして?」という目線を向けていたことも。
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