全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
3.価値観に縛られた自分と、妻との対面
***

 週が明けて、直営店での店舗勤務が始まった。
 
 いつもビジネスカジュアルを心がけた服装で出勤していたが、今日からは動きやすさ重視だ。
 簡素なTシャツとパンツの上に、支給された肩掛けのスタッフエプロンを着用する。
 このエプロンが深いブラウンで幸いにもスタイリッシュなデザインなので、それが救いだった。


「おはようございます。及川さん」

道長(みちなが)くん、おはよう。今日からよろしくね」


 メモ帳やボールペンなどをエプロンのポケットに入れて準備していると、私と同様に今日付けで営業部から異動になった道長くんが声をかけてきた。
 私は彼と一緒に、売上の悪い商品の対策を講じていかなければならない。
 それが本社からのミッションだ。……表向きは、だけれど。

 それにしても道長くんも気の毒に。
 私が企画した例の商品に、彼が深く関わっていたようには思えない。
 ここに異動になったのは、“貧乏くじ”を引かされたからではないかと同情してしまった。


「売上を伸ばせって言われてもねぇ。なにかPOPでも考えてみようか?」


 朝礼を終えたあと、道長くんとふたりで問題の商品がディスプレイされている場所へ赴き、率直な意見交換をおこなう。
 営業部だった彼のほうがアイデアはたくさん持っていそうだ。

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