追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!

ズルい男

 ヘレナはキョロキョロと辺りを見渡し、ホッと息を吐く。


(良かった……今日こそバレずに済みそうだわ)


 玄関の扉に手を掛け、ヘレナはふふ、と笑う。
 今日のヘレナは、普段着ているドレスとは少し趣の異なったワンピースを身に纏い、髪は邪魔にならないよう、高く一つに束ねてある。この格好ならば街に出ても浮くことは無い。立派な町娘の装いだった。


(これでわたしもまた少し……お嬢様から抜け出せるかしら)


 そんなことを考えながら意気揚々と扉を開いたその瞬間、ヘレナは思わず言葉を失った。


「お待ちしておりました、お嬢様」


 目の前に、普段よりもラフなシャツとズボンに身を包んだレイが居る。彼は満面の笑みを浮かべ、馬の手綱を握っていた。


「――――――レイ、あなた一体いつからそこに居たの?」

「街に出掛けるのでしょう? 私もお供いたします」


 レイは質問を質問で返し、そっとヘレナの手を握る。ヘレナは思わず赤面し、ほんのりと唇を尖らせた。


「~~~~レイが付いてこなくても大丈夫よ。だって、すぐそこの教会に行くだけだもの。子どもじゃあるまいし、一人で平気なのに」

「ダメです。お嬢様をお一人にするわけにはいきません」


 眉をキリっと吊り上げ、レイはそう口にする。ヘレナは眉間に皺を寄せつつ、小さく首を横に振った。


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