年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
8.
 ほんと……馬鹿だなぁ……俺。

 自分のやらかした事を思い出しても、後悔の言葉しか出てこない。

 さっちゃんは男が苦手って知ってるのに、それでもつい触れようとしてしまった。……その唇に。
 俺のことなんて、ほんとお父さんと同レベルにしか思ってないだろうに。もし触れてしまってたら、その世代まで苦手の対象になってしまうところだった。

 何やってんだか

 帰り道の、赤く光る信号をぼんやり見ながら思う。
 俺が何しようとしたか、さっちゃんは気づいたかも知れない。でなきゃ、別れる時あんな固い表情はしないはずだ。

 振り向くことなく真っ直ぐに、重い荷物を抱えて帰って行くさっちゃんの背中を見送って、俺は自分のしでかしたことを後悔していた。

「はぁ~……」

 家に帰ると、明かりを付けて溜め息と共にソファに座り込む。
 さっきまでさっちゃんが座っていた場所。そこにあるぬいぐるみを、ポンポンと撫でて俺はまた溜め息を吐いた。

 そうしていると、ポケットに入れっぱなしだったスマホが震え出す。

 取り出して表示を見ると希海だった。

「はーい。何?」

 努めて明るい声で出ると、希海の抑揚のない低い声が聞こえてきた。

『さっきは綿貫のこと、ありがとうございます』
「あー……こっちこそ。さっちゃんは無事に送り届けたからご心配なく」

 さすがに放置して帰ったのが心配だったのかと俺はそう返した。
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