【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)

三十九

 ゴリ、ゴリ何かをすり潰す音が、ロウソクの灯りだけの薄暗い部屋のなかでしていた。
 
「あ、ああ、アイツが憎い――」

 ソソル草、モンリス草と、…………獣の血。
 これらすべて混ぜ合わせればできる。

 すすけた黒いローブを着て――目つきは鋭く、頬はそげ、目の下にはクマ、悪役令嬢エルモはブツブツと恨みごとを呟いた。

『できた……これで恨みがはらせる。フフッ、私がこうなったのは……すべてを奪ったあの子のせい。お前が愛するものすべて呪ってやる――さあ、いきましょうティーグル」

 "グルルル"私の唯一の味方、黒い精霊獣を従えて。


 ――や、やめて、ダメよ! それを使用しては……!
 

「……っ、くっ……あ、あ……ダメッ」

「……ルモ、エルモ!」
 
 誰かによばれて、体をおおきく揺すられて目が覚める。

 うす暗いロウソクの部屋ではなく……いつもの見慣れた天井と、そばにグルがいた。

 彼はエルモのひたいの汗を拭き、心配そうに見つめている。

「はっ、え、……グルさん?」
「エルモ、いま、うなされていたけど怖い夢でもみたのか?」

 夢? そう、あれは夢だ。

 乙女ゲーム――白い精霊獣ルートの場面のひとつ。愛したエルドラッドに裏切られて、闇堕ちしたエルモが作った熱病のクスリ。
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