【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)

十九

 黒い精霊獣の彼を見て乙女ゲームのシーンを思い出した。ゲームの終盤――ヒロインとの戦いに敗れた悪役令嬢エルモ・トルッテと黒い精霊獣。

(白い精霊獣を攻略しないと見られない……悪役令嬢と黒い精霊獣の寄り添う最後のシーン)

 エルモの身体中はヒロインとヒーローのよって、大傷を負っていた――それは、彼女と共に戦った黒い精霊獣もだ。

 黒い精霊獣に支えられる、傷付いたエルモ。

『ごっ、ごぼっ、ハァハァ……私はもう、もたないわ――私を置いて行きなさい』

 とぎれとぎれの声……エルモはもう自分の命が尽きるのをわかっていた。意識があるうちに逃げなさいと黒い精霊獣に伝えても、彼は瞳に涙を浮かべて首を振り、愛しいエルモの頬に頬ズリをする。

『嫌だ、俺もここでお前と共にいく』

『な、何を言っているの? 愛しているの、あなただけは生きて……』

『俺だってエルモを愛している。俺たちはこれからもずっと一緒だ!』

 二人は見つめあい最後のキスをする。
 
『グッ…………ハァハァ、いいのね……私の愛しき黒い精霊獣ティーグル』

『ああ、俺の愛しき姫……エルモ』

 二人は寄り添い、二度と目を覚ますことはなかった。


(そのシーンでボロボロに泣いた……ゲームでの悪役令嬢エルモはかぎりなく悪に染まったけど……最後のシーンは何度も見たし、好きだった)


 ――あの姿は忘れもしない、黒い精霊獣だわ。
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