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2. 負け犬の遠吠え

(1)

「宛先を間違ったぁ?」

「……うん」

 自動販売機から、ガコン、と音をさせて落ちてきたカフェオレを取り出しながら、針谷(はりがい)圭樹(けいじゅ)は目を剥いた。
 そのカフェオレを絶賛落ち込み中の千真に渡し、もう一度自動販売機にお金を入れて、今度は自分用にコーヒーを買うと、すぐにプルタブを起こしてひと口飲む。

「そりゃあ、まぁ……。なんつーか、ご愁傷さま?」

「うう……」

 眉尻を下げ、貰ったカフェオレのプルタブを起こそうと爪を引っかけるが、カツカツと音がするばかりで、プルタブはなかなか起きそうにない。
 とうとうプルタブにまで馬鹿にされているのかな、とべそをかきそうになるが、隣にいた圭樹が、さっと手を伸ばして簡単に起こしてくれる。

「で、1日駿介さんとデートしてたって? 羨ましい話だな」

「デートじゃないし、羨ましくもないよ」

 圭樹は千真の唯一の同期で、よくこうして、話を聞いてもらっている。今回、旭に告白するかどうかもずっと悩んでいて、背中を押してくれたのは圭樹だった。
 高卒でオーキッドに就職した千真は、来月でようやく、20歳になる。10代最後の思い出に、と思って決意したことだったのだが、散々な目に遭ってしまった。
 いや、まぁ、スマホは新しくなったし、オムライスは美味しかったし、映画も面白かったし、夕飯に訪れた駿介おすすめのラーメン屋も美味しかったので、有意義といえば有意義に過ごしたのだが。

「スマホ買いに行って、飯食って、映画観るくらい満喫してりゃ、十分デートだろ」

「でも、そんなつもりじゃなかったもん」

 千真は少しだけ頬を膨らませて、カフェオレの缶の入り口を齧る。
 そりゃあ千真も、少しばかりそう思わないでもなかったし、とても圭樹には言えないが、昼食時のことを考えると、あれはただのバカップルのデートでしかなかった、と認めなくもない。オムライスに釣られたとはいえ、自己嫌悪に陥っているのは事実だが、圭樹に対してそれを認めているというのは、なにか違う気がする。
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