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「で、どうするんだ? また告白するのか?」

「……しばらくは、いい」

 たかだかメッセージとはいえ、されどメッセージ。たったあれだけの文章を送るのに、どれだけ勇気が必要だったか、圭樹には判るはずもない。

「もっかい、勇気を積み上げなきゃ、あんなメッセージ送れないよ……」

 千真は、はぁ、とため息を吐いて、カフェオレを流し込む。一応、送ったメッセージは削除したのだが、別人に送ったという事実は消えない。
 別に、土曜日もずっと一緒にいて、出会い頭にそのことを言われただけで、その後はその件に触れることもなかったのだが、なんとなく苦手意識が働き、どうにもあの目で見られると、馬鹿にされているような気になってしまう。
 千真としても忘れたい出来事ではあるのだが、一緒に出かけた記憶がある以上、そう簡単にもいかず、頭が痛い。

「そんなに落ち込むなって。イケメンとデートできてラッキー、くらいに構えとけよ」

「無理だよぉ」

 圭樹が、千真を慰めるように背中を撫でてくれるが、すぐにその手が背中から離れ、圭樹がぴしっと背筋を伸ばしたのがわかった。
 顔を上げれば、旭と駿介、それから圭樹が所属する開発部の部長である国浦(くにうら)和幸(かずゆき)が、こちらにある自動販売機に向かって歩いてきているようだった。

「っす」

 圭樹が会釈し、千真の腕を引いて自動販売機から離れようとすると、すかさず旭が手を上げ、気にするなと言ってくる。
 3人の中では国浦が一番年上のはずだが、そう思わせない旭の貫禄に、惚れ惚れする。それは決して、旭が老けて見えるとかそういうことではなく、律した態度が上司として相応しく、年若さを感じさせない。
 それになにより、そこにいるだけで絵になるほど、カッコいい。

「なに変な顔してんだよ」

 気持ち悪ぃな。旭に陶酔していた千真は、蔑んだような声と頬の痛さに、急に現実に引き戻された。
 両頬を抓るでなく引っ張るのは、相変わらず目付きの鋭い駿介で、いつも機嫌が悪そうだが、今は余計に悪そうに見える。
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