ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
4. 織江side そして、1か月後

<こちらの者が現地にお伺いして、実際に工場の様子を見せていただくことは可能でしょうか>
《そうですね、私もその方がいいと思います。ただ、労働節(ラオドンジエ)の休暇後で今はバタついてまして、来月の――……》

姉妹企業であるリーズチャイナの担当者とスケジュールの調整をし、詳細を詰めてから電話を切る。

続けて、先方から送られてきた工場や現地の資料を電子辞書片手に翻訳し、決定した視察日程と一緒に、依頼してきた先輩秘書・岡田さん宛てに送信。
一連の仕事を終えて、やっと終わったーって自席で伸びをした。

そのまま明るいフロアをぐるりと見渡す。
ポツリポツリと何人かの姿は見えるが、その中に岡田さんはいない。

外出になってたっけ? まぁ後で見てもらえばいいか。

コーヒーで一息入れることにして、私は席を立った。


秘書アシスタントというポジション上、コピーをとったり物品を補充したりといった雑用も含めて基本的にはなんでも屋の私。ただ、最近は少しずつ本来やりたかった語学力を生かした仕事も増えてきて、密かに喜んでいる。

もちろん社内にはいくらでもエキスパートがいるのだが、人手が足りなかったりタイムリミットが迫ってたり、そんな場合に部署を越えて声をかけてもらい、資料の翻訳や視察団の通訳なんかをやらせてもらっているのだ。

さすがグローバル規模の巨大組織・リーズグループの一翼を担っている会社だけあり、億単位の大プロジェクトに関わることもあったりして、やりがいも十分。今の環境には本当に満足してる。

だからこそ……いつか来るその時(・・・)が憂鬱で仕方ない。


――当然、見合いの席で仕事の話が出たらな、結婚後はすぐに退職して妻としての務めを果たしますと言うんだぞ。

ふいに蘇ったお父さんの言葉に、自然と肩が落ちて行く。

あれからもう、1か月くらい経つ。

ゴールデンウィーク前後はあれこれ忙しくしていたこともあって考えるの忘れてたけど、あの話はどうなったんだろう。

会うのはまだ先、って言われたっけ。
私としては、なくなってしまっても構わないんだけどな……。

< 53 / 345 >

この作品をシェア

pagetop