ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

自分のアパート、小さな1DKの部屋に帰り着いた私は、着替える間も惜しんでバタバタとスマホを取り出した。
決心が鈍る前に、済ませてしまいたかったのだ。

アドレスから選んだのは、“S”という相手。随分前に登録したものだから、向こうが番号を変更してる可能性もあるけど……

最後の瞬間、つと動きが止まる。

これは、私のワガママだろうか。
たくさんの人を苦しめる、裏切りだろうか。

……そうかもしれない。それでも……

――織江は、自分の足で立てる女性にならなくちゃダメよ。
――そして、思うままに生きなさい。


お母さんの言葉をお守りのように繰り返しつつ、震える指で通話ボタンをタップする。

呼び出し音は心配したほどのこともなくあっさり途切れ、聞き覚えのある声が「はい」と応答した。

「……お久しぶりです。突然ご連絡してすみません」

さようなら、副社長。
ほんとにあなたが、好きでした――……


「私たち、もう一度やり直せませんか?」


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