モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 その翌日から、私の特訓の日々が始まった。ダンスに社交のマナー、イルディリア王国の歴史や地理……。学ぶことは山ほどあったが、側妃になるためと思えば、苦にならなかった。
 ちなみに、どの本も難なく読めた。召喚の際に、読み書きの能力も授かったのだそうだ。
 そんなある日、家庭教師から授業を受けていると、スッと部屋の扉が開いた。グレゴールだった。静かに入って来ると、部屋の隅に立つ。教師がノーリアクションなところを見ると、どうやら承知の上らしい。
(私の学習の進捗を、把握しようというのかしら……?)
 お前は受験生の親かと言いたいが、家庭教師代を払っている彼の立場としては、当然かもと思い直す。私はことさら熱心に、教師の話に耳を傾けた。
 やがて授業が終わると、教師はグレゴールに挨拶して部屋を出て行った。とたんにグレゴールが、私を見すえる。厳しい眼差しだった。
「……何ですか。頑張って学んでいますよ? ほら、この通り」
 私は、びっしり書き込んだノートを彼に見せた。
「金を払って教師に来てもらっているのだから、努力するのは当然だろう」
 グレゴールは、ぶっきらぼうに言った。何だか、不機嫌そうだ。彼は、しばらく私を見つめていたが、やがてとんでもないことを言い出した。
「ハルカ。お前のいた世界では、礼儀というものを学ばなかったのか? あの態度は、教師に失礼すぎるだろう」
「――ええ!? 私、何かやらかしました?」
 家庭教師の先生には、いつも敬意を払っているつもりだけれど。何が悪かったのかわからず、私はきょとんとした。するとグレゴールは、スッと右手を挙げた。指を一本立てる。
「ひとつ。『先生、すごーい』」
 二本目の指を立てる。
「ふたつ。『知りませんでした。さすがです!』」
 三本目の指を立てる。
「みっつ。『そうなんですかあ。先生って、会話のセンスいいですう』」
 グレゴールは、三本の指を私の前に突き出すと、すさまじい勢いでにらみつけてきた。
「こんな無礼な台詞があるか。お前は、教師を馬鹿にしているのか?」
「えっと……。私がいた世界では、普通に言っていたフレーズですけど。逆に、何がダメなんでしょうか……」
 男心をくすぐる『さしすせそ』というやつだ。染みついているから、男性教師との会話でも、つい使ってしまったのだけれど。だがグレゴールは、いっそう目をつり上げた。
「相手は、教師だぞ。専門分野の知識を持っていて、当たり前だろうが。それを『すごい』だの『さすが』だの、愚弄していることになるだろう!」
 ぽかん、と私は口を開けた。
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