一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
02.
***
飲み直してから、どのくらいの時間が経っただろうか。
酔い潰れてはいないけどまあまあ気分が高揚している繭が、何杯目かわからないジントニックを飲み干した。
「……っ真面目に仕事してるだけなのに、新人や後輩からは煙たがられて、彼氏には愛想尽かされて」
「うんうん」
「私のやってる事って、そんなにダメなんですか〜?」
「繭さんは間違ってないよ、俺より三つも若いのに良く頑張ってる」
頬杖をつく繭が今日起こった不運な出来事を酒の力を借りて吐き出す度に、優しい言葉をかけて慰めてくれる椿。
飽きる事なく面倒そうにもしないので、つい甘えて愚痴が止まらない繭は、彼がモテる理由が顔だけでは無い事にも気づき始めた。
こんな弱っている時に優しくされたら、遊び人とわかっていても顔が良いからいちいちときめいてしまうし。
椿を遊び人だと知らない女性は、すぐに落ちてしまうのも頷ける。
「……椿さんてぇ、罪深いですね〜」
「んー?」
「そんなだから女性にお酒かけられるんですよぉ〜、あ?それ私か〜」
ついに記憶があやふやになるほど酒が回ってきた時、他のお客さんを対応していたマスターが二人の下にやってきた。
「そろそろ閉店ですけど、繭さん帰れます?」
「ふふ、マスターだいじょぶですよ〜」
「……繭さんがこんなに酔ってるの初めて見る」
「その前に、お手洗い借りますね〜」
「……どうぞ……」
いつもなら自分の適量を理解してマイペースに酒を楽しむ繭。
しかし今日は椿という専用の話し相手がいたせいか、不運を忘れようとしたせいか、いつの間にか酒に飲まれていたようで。
初対面の椿がその異変に気付けるわけもない。