一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
03. 二度と会わない
あれからあっという間にニヶ月が経過して、薄着が当たり前の季節となった頃。
「うん、よく出来てます」
「良かった〜里中さんありがとうございます!」
新入社員の時より少し成長を遂げた後輩が、頼まれていた書類作成をミスなく提出できた事を喜んでいた。
陽気に自席へと戻っていくその背中を見送る繭は、ふぅとため息をついて目頭を押さえる。
毎日が追われるように仕事で忙しい中でも後輩への指導は続くので、部長に言われた通り優しく接するようには心掛けている。
更には自分のペースで仕事を進められず、指導優先して後回しとなる通常業務は、残業で片付けるしかない。
それが地味にストレスなのか、はたまた単なる夏バテなのか、酒も飲む気分になれず発散出来ない日々が続き。
胃のムカつきを誤魔化す為に、繭が職場のデスクに常備するようになったのは、一口サイズのこんにゃくゼリー。
そうして蓄積されていくのは、精神的疲れと睡眠不足だった。
「(最近、心身共にボロボロな気がする……)」
ようやく昼休みに入り自席で突っ伏す繭。
その弱った姿が珍しく、驚いていた部長がすかさず声をかける。
「なんだ里中、調子悪いのか?」
「あ……すみません、最近疲れが取れにくくなったみたいで」
もうすぐ30歳だし、こうして徐々に体が言う事きかなくなっていくのかと悲しい気持ちを抱く。
職場ではいつも毅然としている繭も、さすがに最近の不調続きはしんどいようで、そんな後輩を心配した部長が直ぐに対応してくれた。
「午後は有休当てて病院行け、どうせ全然使ってねぇんだから」
「でもまだ業務が……」
「全部俺が引き受けとくから何も心配すんな」
「……部長」
こういう時、やはり頼りになる部長である事を知っていたから、ここまでついてきた繭。
入社してからずっと育ててもらったが、部長に昇進する前はよく飲みに連れて行ってくれて面倒も見てくれた良き先輩だったから。