断る――――前にもそう言ったはずだ

10.思わせぶりな侍女、その父親

 翌日、モニカは気落ちしつつも公務に精を出していた。

 どんなに凹んだところで、しばらく子ができることはない。
 この上、他の仕事に支障をきたしては、いよいよ自分を嫌いになってしまう。せめてそれ以外の責務はきちんと果たそうとモニカは思っていた。


「――――少し根を詰めすぎではございませんか、妃殿下」


 けれど、二人いる護衛騎士のうちの一人がそんなことを口にする。

 若手騎士のヴィクトルだ。
 彼はモニカを心配している様子で、そっと顔を覗き込んできた。


「そうかしら? いつもどおりだと思うけれど」


 モニカは戸惑いつつも、己の頬に手を当てる。ヴィクトルの言う通り、少し頑張りすぎたのだろうか? 身体が火照っているようだった。


「よろしければ、気分転換に城内の散策に向かいませんか? 今朝、庭師が新しい花が咲いたと話しておりました。妃殿下にも是非見ていただきたい、と」


 ヴィクトルの言葉に、相方の騎士も小さく頷く。


「それは……是非とも見せてもらわないといけないわね」


 モニカはそう言って、ゆっくりと立ち上がる。
 それから騎士たちの案内を受けつつ、庭園へと向かった。


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