囚われのシンデレラーafter storyー

【その先の未来へ】





 * * *




住む場所が変わっても、環境が変わっても。
二人で、どんなことも乗り越えて来た。隣にはいつも、佳孝さんがいた。


「……あずさ、ちょっといいか?」

書斎で仕事をしている佳孝さんのもとにコーヒーを届けた時、そのまま呼び止められた。

「はい」

佳孝さんが、椅子ごとくるりと私の方に身体を向ける。
掛けていた眼鏡をデスクに置くと、傍に立つ私を見上げた。

「子供たちをお母さんのところに迎えに行くのは、夜でいいんだよな」
「はい。孫と水いらずで過ごせるって、母が張り切ってましたから。夕飯の準備もしてるんじゃないかと思います」

今、私たちには小学生の子供が二人いる。
一人は男の子、もう一人は女の子だ。
この日は二人して私の母の家に遊びに行っている。
孫と過ごすのが生きがいだという母と、孫に甘いばあばが大好きな子供たち。
こうして親抜きで過ごす時間の方が、より楽しいらしい。

「そうか……」
「どうかしたの?」
「あずさに、相談したいことがあるんだ」

40歳をとうに過ぎても、こうして二人きりになると夫にときめく。
仕事中に掛けていた眼鏡をはずす瞬間なんていう、なんてない仕草にすら、一瞬にして若い頃に戻ったようにドキドキとするのだ。

「難しいことですか?」
「かなりな」

でも、佳孝さんのその表情に、ときめいている場合じゃないと身を正す。

「なんですか?」
「ちょっと、こっちに」
「はい……」

佳孝さんが私の手を取り引っ張った。

「あ、あの……この体勢は、何?」

大きな仕事用の椅子に腰かける佳孝さんの膝の上に、横向きに座らされている。

「真面目な話じゃないの?」
「ああ。いたって真面目な話だよ?」

私の腰に手を回して身体を支え、その目が私をじっと見る。

「でも、真面目な話をするような体勢には思えませんけど――」
「この方が、より近くであずさの顔を見られるから。あずさの顔をちゃんと見て、話したい」

指一本一本を確かめるように、左手を握りしめられる。
こんな年にもなってこんな風にされると、恥ずかしさに負けそうになる。
でも、されるがままにすることにした。

「実は、昨日、センチュリーに呼ばれた」
「……え?」

その名前に思わず佳孝さんの目を見つめる。



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