紫陽花が泣く頃に
7 もう傘はいらない


病院に運ばれてから数日後、頭の包帯が外れた。学校にも目立たずに通えるようになり、俺の席の隣には今日も柴田が座ってる。

「頭は平気だったけど、腕の擦り傷が風呂で滲みるんだよ」 

「私もそうだよ。ほらここ」

「いや、俺のほうが化膿してヤバいから」

「なにそれ、ケガ自慢?」

俺を心配して泣いた時は可愛かったのに、今は無愛想で可愛げがない柴田に戻っている。

「頭も打ってないのに気絶してたくせに」

「そっち助け方が下手くそだったからじゃないの?」

こんな言い合いができるくらいに俺たちの関係は変わった。さらに、もうひとつあの事故によって変化したことがある。それは、柴田が自分のことを話してくれるようになったことだ。

柴田の両親が離婚していたことや、父親に引き取られて一緒に暮らしていること。今まで律子さんとは疎遠になりつつあったけれど、これからは頻繁に会う約束をしてること。そんなことを、胸のつかえが取れたように教えてくれた。

柴田は少しずつ前に進みはじめた。

俺はどうだろう。

美憂は立ち止まったままの俺を見て、情けないと笑うだろうか。


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