この世で一番大切なもの
第十三章
俺は夜中に一人、コマ劇前で座っていた。

仕事後で酔っ払っていた。

キャッチするわけでもない。

身体は震えていた。

まるで歌舞伎町という町に、迷い込んでしまった野良猫のようだった。

次の日が休みだったのもあって、俺は暇だった。

何かを探していたのかもしれない。

ただただコマ劇前で、飲んだくれているサラリーマン、女を買いにくる男共、買出し中のキャバ嬢、ホテルに仕事に行く風俗嬢などを見ていた。

見ていて悲しくなった。

それはなぜなのか。

俺にも曖昧で分かりづらい感情だった。

人間のいやらしさ、人生の無常さ、そういったものを見たのかもしれない。

考えれば考えるほど人生とは不毛なことだ。

俺は一人、星の見えない歌舞伎町の夜空を見上げた。

まるで先の見えない俺の人生のようだった。

虚しさが胸に突きささる。

不安という感情が襲いかかってくる。

人生に迷っていた。

酔っているせいかもしれない。

俺の目から、自然に涙がたれた。





< 33 / 35 >

この作品をシェア

pagetop