グリンダムの王族

後宮の移動

その後ファラントに帰国したクリスは、宰相と供に王と王妃の前に連れて行かれた。
グリンダムでの様子やラルフ王との会談の内容などの報告のためだった。

だがクリスは王の前に膝まづいたまま、王が声をかけても何も答えようとしなかった。
グリンダムからの帰国の道中も、彼は一言も言葉を発しなかった。

代りに宰相がグリンダムと婚姻の約束を交わしたということを報告していた。

ファラントのアレクサンドル王は息子の様子を気にしたようだったが、
旅の疲れと理解して、特に何も聞かなかった。



自室に戻ったクリスに、侍女が2人「おかえりなさいませ」と言いながら近づいた。
彼の着替えを手伝うべく1人は衣服を手に抱えており、もう1人はクリスの肩を覆っているマントに手をかける。

「出て行け」

クリスは目を伏せたまま、そう呟いた。侍女がその言葉に固まった。

「―――出て行け!!!」

クリスは声を荒げた。

侍女達は慌てて頭を下げると、「失礼いたしました!」と逃げるように部屋を退出した。クリスは部屋に1人になった。

歯を食いしばった彼の目から、涙がこぼれた。

言いようの無い怒りと、悲しみと、悔しさが彼を襲った。
溢れ出す感情に、体が震える。彼は嗚咽をもらしながら、その場に両膝をついた。

「ちくしょう、、、」

言いながら、クリスは崩れるように床に突っ伏した。

―――ラルフ王、、、許せない、、、許せない、、、!!!

心の中で叫びながら、彼は泣いた。

もう2度と会えないであろう、リズのことを想いながら。
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