逢瀬を重ね、君を愛す

つながる絆




――--ブーブーブー


そっと目が覚めると、夕暮れのオレンジに染まる空が視界いっぱいに広がった。
数回瞬きをすると、だるい体を起こし、先ほどからなり続けている方へ視線を流す。

震える携帯の画面に現れいる「着信:ママ」の文字。
そっと携帯を手にとり、通話ボタンをおして耳に当てた。


「あ、彩音?今どこなの?帰ってくるってメール来てから3時間たっても帰ってこないから心配してたのよ!アップルパイもさめちゃったし!」

「あ…うん、ごめん。すぐ帰る。」


うんうん、と適当に相槌を打って、電話を切る。
当たりを見渡せば、懐かしい現代で。丁度、あの時代へ飛ばされた場所だった。
変わらない光景に、今までの生活が嘘だったのではと思ってしまう。

母の話だと、あの時代に行ってたのは3時間だけだったようだ。


「…実感わかない…や…」

何度も、何度も帰りたいと願った世界。なのに、あまり嬉しくない。
無性に向こうの世界の事ばかり考えてしまう。
次々に懐かしい面影が脳内を駆け巡る。


「桜乃…蛍さん…清雅……」


順番に思い出しながら、涙が溢れる。


「薫…っ!!」



そして。


「…かおる…?って誰だっけ…大事な人だった気がする…けど…」


ほんの少しの淡い恋心を残し、過去の記憶は忘却の彼方へと消え去る。




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