上司に恋しちゃいました
おまけ
――時はさかのぼり。雑誌が発売される一か月ほど前。


「特集ページの最後を飾るのは、家族三人の幸せそうな笑顔なんですから、気合い入れて笑ってくださいよ!」


カメラマンの後ろでマネージャーのように指示をしながら仁王立ちする宮沢さん。その目は真剣そのものだった。


「気合いを入れて笑うって、どういうことよ」


 ハワイの真っ白な砂浜で、透けるような青色の空と海を背景に、あたしと鬼の王子。

そして愛娘、優樹菜と三人で頬を寄せ合っていた。


「氷の姫と呼ばれるほど、愛想が悪かった先輩がなに言ってるんですか。気合いでも入れないと笑顔作れないでしょうが。課長も眉間に皺寄せないでくださいね~」


「もうお前の課長じゃないんだから、その呼び方止めろよ。それに今は部長だし……」


 鬼の王子が呆れ顔で言うと、宮沢さんは、ああそうでした、と大して興味もなさそうに呟いて、いつもの宮沢節を炸裂させた。


「こっちだってお前って呼ぶの止めてもらえます? 私は先輩と違ってドMじゃないんで、お前って呼ばれるのが一番嫌いなんですよね」


「お、おお、すまん」


 宮沢さんの迫力に押されて、素直に謝る鬼の王子。


宮沢さんは、ふんっと鼻を鳴らして横を向いた。

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