苦い舌と甘い指先
甘噛み
火曜日。今日も何も変わらず平和だ。
昨日の肥後の暴挙もすっかり頭から消え去ってしまっていた。
「ジュノ、トマトとから揚げトレードしようぜ」
「それはあたしにとって何のメリットも無い。却下!」
「えーーーー!?」
騒ぐな暑苦しい。
大体ミツは胃下垂で燃費ワリぃんだから、どうせ出すなら野菜でも食ってろ。エコだぞ、エコ。
「っつーか、昨日はお前のせいで海坊主がカンカンだったぞ。なだめるのに一苦労したんだから」
「げ!俺殺されると思う?」
「三日以内に始末されるに五千円」
「……遺書書いてくるわ」
……海坊主とはうちの親父の事だ。頭に一切の毛が無い事からあたしが名づけてやった。
その海坊主の分のハンバーグがミツの胃の中に収まったせいで、昨日のヤツの晩御飯はお茶漬け一杯だけだった。
肉体労働の後の夕御飯だけが海坊主の生きがいだと言うのに。
…まあ、分かってて出した母ちゃんも悪いのだが。
それは知らんふりして、箸でミツの弁当箱の一角を指す。
「分かったらさっさとその春巻きを寄越せ」
「ええ、もう…幾らでもどうぞ…」
こうして利用できるなら、まあ良いか。