苦い舌と甘い指先
思い出すだけで腹が立つ。鳥肌が立つ。
「もう、帰ろうよ」
「良いけど…。ハンバーグ一個くれ。慰謝料だ」
「……母ちゃんに聞いてみる」
「よっしゃ!」
ハンバーグの事なんてどうでも良い。
一刻も早くこの場から立ち去りたい。
あんな男があたしの視界に入るだけで吐きそうになる。
もう二度と会わないとは思いつつ
心のどこかでまた会いそうな予感がしていた。
あたしはまだ知らない。
アイツの…肥後と言う男の、粘着的なしつこさを。
蜘蛛の糸の様に、一旦捕まったら食われるまで逃げられないと言う事を。
もう、その糸にかかってしまっている事を
この時はまだ 知らない。