楽園の炎
第二十七章
「うう、折角コアトルの町に来てるんだから、市に行きたいなぁ」

朝、憂杏は窓の外を眺めながら、そわそわと呟いた。

「でもまだ、荷の買い付けには早いだろう。今荷物を増やすのも、面倒だしな」

窓際に寄りかかって外を見ている憂杏の背後から、夕星が朝餉の粥をかき混ぜながら言う。
朝の冷たい空気の中に、粥の湯気がほかほかと立ち上る。

「ナスルを連れて、行ってくりゃいいじゃねぇか。喜ぶぜ」

もぐもぐと粥を掻き込みながら言う夕星に、憂杏は、ふぅ、とため息をついた。

「でも、正妃様に俺の服、作っていただいてるじゃねぇか。途中でも、合わせたりしないといけないだろ? あんまり、ふらふらしてられねぇんだよな」

言いながらも、憂杏の目は窓の外に広がる港町に釘付けだ。
宮殿からは、町が一望できる。
海も見えるし、そのすぐ前には、大きな市も広がっているのだ。
商人からすれば、すぐにでも飛んでいきたいところだろう。

「ある程度作ってしまえば、後は別に、いなくてもいいと思うがな。俺も、町の視察にでも行くかね。しかしあいつら、いつまで寝てるんだ」

器を置き、夕星はちらりと扉のほうを見た。
朝は朝だが、そう早い時間でもない。
皆砂漠越えで疲れていたこともあり、結構な時間まで寝ていたのだ。
が、朱夏もナスル姫も、まだ姿を見せていない。

「様子を見に行こうかなぁ。でもラーダに叩き出されそうだな・・・・・・」

夕星がぶつぶつ言っていると、扉が開いて葵が現れた。
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