楽園の炎
第六章
磨き上げられた内宮の廊下を、朱夏は急いで歩いていた。
本当は全速力で駆け抜けたいところだが、外宮ではともかく、内宮では有事でもないのに、ばたばたと走るわけにもいかない。
その辺にいるのは、全員高級官僚なのだ。

賓客用の立派な扉の前まで来ると、控えていた侍女が、ククルカンの兵士に取り次いでくれ、兵士が扉を開ける。

中にいるはずのナスル姫に頭を下げようとした朱夏は、そのナスル姫と話している兵士がいるのに気づいた。

「じゃ、お願いね」

「かしこまりました」

朱夏の姿を認め、話を打ち切ったナスル姫が、兵士を促す。
兵士は一礼し、すれ違い様に、朱夏にも礼をして去っていく。
慌てて兵士に礼を返した朱夏は、何となく気になって、兵士の背を見送った。

「朱夏。さぁどうぞ。お待ちしてましたわ」

言われて視線を戻せば、ナスル姫がにこにこと手招きしている。
朱夏は一礼し、部屋に入った。

「ククルカンからの手土産が、やっと届いたの。主なものは一緒に持ってきたんだけど、これは個人的なものだから、後で送ってもらったんだけど」

やっぱりちょっと、時間がかかっちゃったわ、と言いながら、姫自らカップにお茶を入れる。

昨日、星見の丘から帰ってきたのは、夜も明けようという頃だった。
何とか警備の者に見つからず自室に戻り、そのまま眠り込んだ。
寝たのが明け方だったので、案の定起きたのは、すでに日が高くなった頃だった。

午前中の稽古には間に合わないな、と寝台の上でぼんやりしていた朱夏の目をしっかりと覚まさせたのは、アルの持ってきた言伝だった。
ナスル姫が、朱夏をお呼びだというのだ。
慌てて支度をし、外宮は走り抜けて、内宮に入ると早歩きで、ここまでやってきたというわけだ。
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