ありのまま、愛すること。

ホスピスに思う幸せな死

ホスピスでボランティアをさせていただいたことがありました。

そこには優しい風が吹いていました。

まるでそこだけが病院の空間という現実から切り抜かれて別の場所に置かれているような、不思議な空間でした。ギターを抱えた若い牧師さんが歌を歌い、車椅子の周りのボランティアさんたちは、手を叩いていました。

壁には、黒田征太郎さんの小鳥のイラストが楽しそうにさえずり、窓の外には花と緑の散歩道が続いていました。

一人の患者さんが、私を見つけ、手を振ってくれました。

それをきっかけに彼らの輪に入ることができました。その患者さんは、みなさんから「京子さん」と呼ばれていました。

美空ひばりの「柔」が好きで、牧師さんにリクエストをするのですが、若い牧師さんはその曲を知らないと、大変に申し訳なさそうにしていました。

「ホスピス」

この言葉を聞いたことがあるでしょうか。

末期がんの患者さんのための「死に行く施設」です。病院の案内には、こう書かれています。

「主にがんなどの治癒が困難な、末期の病と共に生きる方が、人生の最後まで人間として尊厳を守って過ごされることを、ご家族と共に支援していく施設です。
痛みや不快な症状を緩和する身体的ケア、不安や悲しみなどの心理的な課題に直面した時、援助する精神的ケア、経済的社会的ケア、そして人生のふり返りなどのお供をするスピリチュアルケアを通して、全人的ケアを目指します」

この病院のホスピスは16ベッドです。

平均的入院期間は「20日」だそうです。

「ホスピス」の退院は、「死」を意味しますから、ほとんど毎日、どなたかが、亡くなられているのです。



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