放課後は、秘密の時間…
第五章 嫉妬
「――声出さないでよ、先生」


出したくても、出せるはずがない。


少し骨ばった大きな手に塞がれて、あたしの声は言葉にならない。

指の隙間から、うめき声みたいなものがこぼれていくだけ。


息もまともにできないほどきつく押さえられて、あまりの苦しさから、目じりに涙が浮かんでくる。


その涙に、もしかしたら恐怖も混じっているのかもしれないけど……

それ以上はもう、考える余裕もなかった。


どうにか逃げたくて身をよじると、


「暴れないで、先生……」


耳元に低い声が響く。

ね、と意地悪く笑った彼は、そのまま、もう片方の手を伸ばした。


「ん……んん……」

「ダメだって、先生。静かにしてくれなきゃ、あいつらに見られちゃうよ?」


ドア一枚を隔てた廊下から聞こえてくる、生徒達の話し声。

市川君の言う「あいつら」が彼らを指しているとわかって、あたしは必死に首を振った。


「だろ?だったら、静かにしててね」

「……っ……!」


無表情に言うと、彼はあたしの服に手をかけた。



――どうして、こんな際どい状況に、あたしがいるのかというと……


それには少し、説明が必要だったりする。

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