ボーカロイドお雪
第五章 お雪誕生
 あたしはおじさんの車の助手席に乗せてもらい、雪子ちゃんのお母さんに車の窓越しに何度も頭を下げた。車が走り出し、おば様の姿が見えなくなる。大きな道路に出るまで、あたしもおじさんも決まり悪そうに黙りこくってしまった。
 やがておじさんが、口を開く。
「いや、驚いたよ。あいつから電話をもらった時は……雪子を訪ねて来るお嬢さんがいる。高校生で声が出せない……そんなの君しかいないだろうからね。すぐ君の事だと分かったよ。君の方も聞きたい事が山ほどありそうだね」
 確かに山ほどある。でも、どれから訊いたらいいのか、あたしは考え込んでしまった。さんざん迷った末にあたしはPDAに文章を打ち込んだ。車が赤信号で停まるタイミングに合わせて、次々におじさんにそれを見せる。
『あのボーカロイド、お雪は雪子ちゃんの声から作ったんですか?』
 おじさんはPDAのディスプレイの文章を横からのぞきこみ、信号が青に変わるまでしばらく考え込んだような表情を見せ、車が動き出すとゆっくり話し始める。それを繰り返した。
「もう、想像がついていると思うけど。雪子は僕とあいつ、さっきまで君が会っていたあのおばさんだね、僕たちの娘だよ。たった一人の子供だった。けれど、これももう知っているだろうが、二年近く前に死んでしまった。そして、僕が雪子が残した声をデジタルデータにして、あのボーカロイドを作った。そう、君の考えている通りだ。お雪は僕たちの娘の声で作ったんだよ」
 でも、どうやって?あたしがまたPDAに指をかけると、おじさんはハンドルから左手を離して掌をあたしのPDAの上にかぶせるようにしてあたしの動きを止めた。
「作ったと言っても、どうやって?……かな?」
 あたしは小さくうなずく。おじさんが言葉を続ける。
「実は僕はこう見えてもね、一年ほど前までは大手のソフトウェア製作会社の技術者だったんだよ。まあ、コンピューターエンジニアというやつだ」
 あたしはあからさまにびっくりした表情を顔に浮かべてしまった。今までは、田舎町の小さなお店のくたびれたおじさんという印象しか持っていなかったから。さすがに失礼だったかな?と思ったけど、おじさんは気にせず苦笑を浮かべながら言う。
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