ボーカロイドお雪
エピローグ
 さて、後日談です。と言っても、ここからはあたしのノロケだかんね!
 早いものでもう木枯らしの吹く季節になっていた。お出かけ前の念入りな服装チェックをしているあたしの背後のパソコンの画面から、毎度のごとくお雪が茶々を入れている。
「かすみ。ちょっとスカートが長すぎるんじゃない?」
 あたしはいちいち返事をしない。それを言うなら「短すぎる」とか言うべきだろ。いちいちパソコンのキーボードに向き直って文句の文章を打ち込むのも疲れるから、あたしはパソコン画面に向かってアッカンベーをしてやった。
 お雪はあたしの反応などおかまいなしに口をはさんでくる。あたしが休日に出かける前のお決まりの習慣みたいになってしまっている。
「それにさぁ、コートの下はもっと露出度高くしないとぉ。男の子はそういうのに弱いんだから。あの猛さんて人、見るからに純情そうだから……」
 あたしは心の中で毒づいてやる。そんな事はあたしの方がよく知ってるの!まあ、お雪、あんたの男を見る目が確かなのは認めてあげるけどね。
 だが、その次のお雪のセリフであたしは危うく床にすっ転びそうになった。お雪はこう言ったわけ。
「だ・か・ら・あぁー。かすみの方からちゃんと毒牙にかけてあげないと」
 て、てめえ、今のはさすがに聞き捨てならないぞ!あたしはパソコンのキーボードに向かってウィンドウに文章を打ち込む。
『言うに事欠いて、毒牙とは何だ、毒牙とは。あたしに猛さんを色仕掛けで誘惑でもさせる気か!』
 お雪はひじから先の腕を肩の辺りまで上げて手の平を外側に向かって開いて、そのまま首を横に振った。あきれたような顔でシュラッグをする。
「もう、かすみってば、ほんとにオクテなんだから……」
『あたしがオクテなんじゃなくて、あんたがマセ過ぎてんのよ!あんたのオリジナルの人格は中2だろうが!それにボーカロイドとしてのあんたは生まれてまだ二年も経ってないんだぞ!』
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