わかれあげまん
甘いワナ
数日後の午後。
塗りたてのワックスの匂いのする大学の体育館のフロアの隅に柚はちんまりと膝を抱え、リラックスムードに談笑しながらシューティングしている学生たちをぼんやりと眺めていた。
「アップやんないの?柚。」
背後からそう声が掛かり振り返ると、ボールを脇に抱え美也子が小首をかしげて自分を見下ろしていた。
「…う、うん。」
柚は小声で返すと、揃えた膝頭の上に再び顎を乗せ、フッと物憂げな溜息をついた。
「どしたのよ。元気ないじゃん。…」
美也子は彼女の目線を辿り、その理由を納得する。
リングを囲みシュートを打っている男子学生の中、ひときわ長身の幅広な背中の人物を目に止め、
「あ~。…なるほどね。クズの渡良瀬か。」
と笑み含みながら言い、柚の隣にストンと腰を下ろした。
ふう、とまた重たい溜息をついて柚はうつろな目をフロアに向けた。